老後の生活を支える大切な国民年金。受給開始年齢は原則65歳ですが、実は「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」という選択肢があることをご存知でしょうか?
「少しでも早く年金をもらって、その分を運用に回したい!」
「長生きするなら、もらえる年金額を増やしたい!」
このように、様々な考えをお持ちの方のために、今回は国民年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給について、それぞれのメリット・デメリット、そして具体的なシミュレーションを交えながら詳しく解説していきます。
この記事を読めば、あなたにとって最適な年金受給のタイミングを見つけるヒントがきっと見つかるはずです。
1. 国民年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給とは?

まずは、それぞれの制度の概要を理解しておきましょう。
〇 繰り上げ受給
60歳から64歳までの間に、年金を前倒しで受け取る制度です。
- メリット: 早く年金を受け取れるため、早期リタイアや急な出費に対応できます。
- デメリット: 年金額が減額され、一度減額されると生涯その金額が続きます。
〇 繰り下げ受給
66歳以降、最大75歳まで年金の受給開始を遅らせる制度です。
- メリット: 年金額が増額され、生涯にわたって増額された年金を受け取れます。
- デメリット: 年金をもらい始めるのが遅くなるため、その間の生活費を自分で賄う必要があります。
2. 繰り上げ受給シミュレーション:年金を運用に回す選択肢



「早く年金をもらって、それを投資に回せば、将来的に有利になるのでは?」
そう考える方もいらっしゃるでしょう。



ここでは、60歳で繰り上げ受給を開始し、その年金を運用に回した場合のシミュレーションを見ていきましょう。
【シミュレーション条件】
- 国民年金を満額受給できるケースを想定(年額約78万円)
- 60歳で繰り上げ受給開始
- 減額率:60歳受給開始の場合、約30%減額(0.4% × 60ヶ月 = 24%)
- ※2022年4月以降は減額率が0.4%に変更されています。本シミュレーションでは、0.4%で計算します。
- 運用利回り:年利3%で積立NISAなどを活用して運用
- 死亡年齢:85歳と仮定
〇 60歳で繰り上げ受給した場合の年金額
・年額約78万円 × (1 – 0.24) = 約59.28万円
月額約4.94万円
〇 繰り上げ受給した年金を運用に回した場合
60歳から64歳までの5年間で、約59.28万円 × 5年 = 約296.4万円を運用に回せるとします。
この296.4万円を年利3%で25年間(60歳から85歳まで)運用した場合…
元本:296.4万円
運用益を含めた総額:約620万円
【解説】
このシミュレーションでは、60歳から繰り上げ受給した年金を運用に回すことで、85歳時点では年金受給額の減少分を補填し、さらにプラスになる可能性も示しています。しかし、これはあくまで年利3%という仮定に基づいたものであり、運用には元本割れのリスクも存在します。また、運用期間が長ければ長いほど複利効果は大きくなりますが、若いうちから計画的に運用を始めることが重要です。
3. 繰り下げ受給シミュレーション:長生きリスクに備える選択肢



次に、年金を繰り下げて受給した場合のシミュレーションを見ていきましょう。
【シミュレーション条件】
- 国民年金を満額受給できるケースを想定(年額約78万円)
- 70歳で繰り下げ受給開始
- 増額率:70歳受給開始の場合、42%増額(0.7% × 60ヶ月 = 42%)
- ※2022年4月以降は増額率が0.7%に変更されています。本シミュレーションでは、0.7%で計算します。
- 死亡年齢:85歳と仮定
〇 70歳で繰り下げ受給した場合の年金額
年額約78万円 × (1 + 0.42) = 約110.76万円
月額約9.23万円
〇 65歳受給開始と比較した場合
65歳で受給開始した場合の年金額が年額約78万円なので、70歳まで繰り下げると、年間で約32.76万円も年金額が増えることになります。
【解説】
繰り下げ受給は、長生きすればするほど受け取る年金の総額が増えるため、長寿社会において非常に有効な選択肢と言えます。特に、平均寿命が延び続けている現在、老後の生活資金をより盤石にしたいと考える方には魅力的な制度です。ただし、70歳まで年金収入がない期間が発生するため、その間の生活費をどのように賄うかを事前に計画しておく必要があります。
4. 繰り上げ・繰り下げ、どちらを選ぶべきか?



ここまで、繰り上げ受給と繰り下げ受給のシミュレーションを見てきましたが、どちらがあなたにとって最適かは、以下の要素によって異なります。
・健康状態・寿命の予想:
ご自身の健康状態や、ご家族の長寿傾向などを考慮し、ご自身の寿命をある程度予測することが重要です。
・資産状況・収入源:
年金以外にどれくらいの貯蓄や収入があるかによって、年金に頼る度合いが変わってきます。
・ライフプラン:
早期リタイアを考えているのか、長く働き続けたいのかなど、ご自身のライフプランも選択に大きく影響します。
・運用能力・リスク許容度:
繰り上げ受給した年金を運用に回す場合は、ご自身の運用知識やリスクをどこまで許容できるかが重要になります。
〇 こんな人には繰り上げ受給がおすすめ!
- 健康状態に不安があり、年金を早めに受け取りたい方
- まとまった資金が必要な予定がある方
- 年金以外に十分な貯蓄や収入があり、年金の減額分を補填できる方
- 積極的に運用を行い、資産を増やしたいと考えている方(ただし、リスクも理解した上で)
〇 こんな人には繰り下げ受給がおすすめ!
- 健康状態が良好で、長生きする自信がある方
- 65歳以降も働き続け、安定した収入がある方
- 老後の生活資金をできるだけ多く確保したい方
- インフレリスクに備えたい方(年金額が増額されることで、物価上昇に対応しやすくなります)
5. まとめ:情報収集と専門家への相談が重要



国民年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給は、どちらも老後の生活に大きな影響を与える重要な選択です。ご自身の状況に合わせて最適な選択をするためには、以下の点に留意しましょう。
- ご自身のライフプランや健康状態、資産状況をしっかり把握する。
- 繰り上げ・繰り下げによる年金額の変動を正確にシミュレーションする。
- 年金制度は改正される可能性もあるため、常に最新情報を確認する。
- 必要に応じて、年金事務所やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談する。
この記事が、あなたの老後設計の一助となれば幸いです。後悔のない選択をして、安心して豊かな老後を送りましょう。
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