2024年に始まった新NISAの話題で持ちきりの昨今ですが、「iDeCo(イデコ)」という制度も気になっている方は多いのではないでしょうか?「NISAのことはよくわかるけど、iDeCoは仕組みが複雑そう…」「出口戦略って何?」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、iDeCoを正しく理解し活用することで、大きな節税メリットを享受できる可能性があります。
このブログ記事では、iDeCoとNISAの制度の違いから、iDeCoの最大の魅力、そして最も複雑で敬遠されがちな「出口戦略」(受け取り時の課税)について、具体的なシミュレーションを交えながら徹底的に解説していきます。特に、退職金がある方がiDeCoを最大限に活かすための賢い受け取り方に焦点を当てていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
iDeCoとNISA、ここが違う!基本的な制度比較
まずは、iDeCoとNISAの主な違いを簡単に整理しましょう。
• 目的
◦ iDeCo:老後の年金(年金目的のみ)
◦ NISA:多様な目的(教育資金、住宅資金、老後資金など何でもOK)
• 引き出し可能な年齢
◦ iDeCo:原則60歳以降でないと引き出し不可(50歳や55歳で引き出したくてもできません)
◦ NISA:いつでも引き出し可能
• 運用益の非課税
◦ iDeCo:非課税
◦ NISA:非課税
◦ ※運用して得た利益に税金がかからない点は両者共通の大きなメリットです。
• 掛金の所得控除(積み立て中の節税効果)
◦ iDeCo:全額所得控除の対象となり、所得税や住民税が安くなります。
◦ NISA:所得控除の対象外。
• 受け取り時の課税
◦ iDeCo:課税対象(ここが最も複雑で敬遠されるポイントです)。
◦ NISA:非課税。
iDeCo最大の魅力:「掛金の全額所得控除」とは?
iDeCoがNISAと比較して圧倒的に有利な点の1つが、積み立てる掛金が全額所得控除の対象になることです。これは、年収からiDeCoの掛金分が差し引かれて税金が計算されるため、毎年支払う所得税と住民税が安くなるという、非常に大きな節税メリットを意味します。
〜例えば、年収500万円の人が毎月2万円(年間24万円)iDeCoに積み立てた場合〜
• 通常500万円にかかる所得税・住民税が、476万円(500万円 – 24万円)にかかる形で計算されます。
• これにより、年間約4万8,000円もの税金が安くなります。



もし10年間続ければ48万円、20年間続ければ96万円も税金が安くなる計算です。
この節税効果は、iDeCoで運用した資産がもし増えなかったとしても得られるメリットです。NISAではこのような掛金による税制優遇はありません。
「60歳まで引き出せない」という制約があるものの、「あと10年待てばいい」という年代の方にとっては、「NISAよりもiDeCoの方がお得なのでは?」と感じるかもしれません。しかし、問題は「出口戦略」、つまりお金を受け取る際の税金です。
iDeCoの「出口戦略」が複雑な理由と3つの受け取り方
iDeCoの運用益は非課税ですが、受け取り時には課税される点が、NISAと大きく異なります。これがiDeCoの最も難しい、そして敬遠されがちなポイントです。



iDeCoの受け取り方には、主に以下の3つのパターンがあります。
1. 一時金での受け取り:全額を一括で受け取る方法。
2. 年金での受け取り:分割して定期的に受け取る方法。
3. 併用しての受け取り:一部を一時金で、残りを年金で受け取る方法。



これらの受け取り方によって、税金の計算方法が大きく変わってきます。
1. 一時金で受け取る場合の注意点:退職金との合算課税が厄介!
iDeCoを一時金で受け取る場合、税金の計算方法は退職金と同じ扱いになります。積み立て期間によって非課税枠が設けられていますが、特に注意が必要なのが「退職金との合算」です。
• 非課税枠の計算:
◦ 積み立て期間20年以内:40万円 × 積み立て年数 が非課税
▪ 例:10年間積み立てた場合、40万円 × 10年 = 400万円まで非課税。
◦ 積み立て期間21年以上:800万円 + 70万円 × (積み立て年数 – 20年) が非課税
▪ 例:30年間積み立てた場合、800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円まで非課税。
もし退職金がない方であれば、iDeCoの資産が上記の非課税枠を超えることは稀であるため、税金がかかるケースは少ないでしょう。
しかし、退職金がある方は話が複雑になります。iDeCoを一時金で受け取る場合、退職金とiDeCoの合計額で税金が計算されてしまうのです。
例えば、退職金が1,000万円あり、iDeCoが500万円ある場合、合計1,500万円として計算されます。もしこの1,500万円が、退職所得控除額(勤続年数などに応じて計算される非課税枠)を超えてしまうと、税金がかかってしまいます。
「今までiDeCoの掛金で年間約4.8万円も節税してきたのに、退職金と合算されて税金がかかってしまい、結局プラスマイナスゼロになってしまった…」という事態に陥る可能性もあります。そのため、退職金がある方は、安易に一時金で受け取ることは避けた方が良いかもしれません。
2. 退職金がある人が検討すべき「年金受け取り」のメリット
退職金がある方がiDeCoのメリットを最大限に活かすために検討すべきなのが、「年金での分割受け取り」です。この方法は、特に公的年金があまり多くない方ほど効果が大きくなります。
iDeCoを年金で受け取る場合、税金の計算方法は公的年金と同じ扱いになります。公的年金等控除や基礎控除などを考慮して税金が計算されます。
• 公的年金等控除と基礎控除の合計額:
◦ 60歳~64歳で受け取る場合:公的年金等控除60万円 + 基礎控除48万円 = 108万円。
◦ 65歳以降で受け取る場合:公的年金等控除110万円 + 基礎控除48万円 = 158万円。
◦ これらの金額を超えると税金がかかり、超えなければ税金はかかりません。
iDeCoの年金受け取りには、5年、10年、15年、20年の4つのパターンしかありません。受け取る金額や年数を細かく指定することはできません。
国民健康保険料への影響にも注意が必要です。会社員として社会保険に加入している方は影響しませんが、自営業の方や65歳以降に会社を退職して国民健康保険を支払っている方は、iDeCoの年金受け取りによって国民健康保険料が値上がりする可能性があるので、注意が必要です。
iDeCo年金受け取りシミュレーション:税金ゼロの理想ケース
具体的なシミュレーションで、年金受け取りのメリットを見ていきましょう。
【ケース1】退職金があり、iDeCoを税金ゼロで受け取りたい場合
• 退職金:1,000万円
• iDeCo資産:450万円
• 公的年金:月額9万円(年額108万円)
この方がiDeCoを「65歳から15年間」で分割受け取りした場合:
• iDeCoからの年金(年利5%で運用しながら受け取る前提):年間約43万円
• 公的年金:年間108万円
• 合計収入:151万円
この場合、65歳以上で年金を受け取る際の非課税枠158万円を下回るため、所得税も住民税も0円になります。国民健康保険料も最低水準に抑えられ、さらにiDeCoの資金が長く運用され続けることで、一括で受け取るよりもトータルの受け取り額が増える可能性があります。これは、iDeCoを最も綺麗に、税金がかからずに活用できる理想的なパターンと言えるでしょう。
年金受け取りシミュレーション:受け取り期間が短いと税金が増えるケース



では、同じiDeCo資産でも、受け取り期間を短くするとどうなるでしょうか?
【ケース2】iDeCoを短期間で受け取った場合
• 退職金:1,000万円
• iDeCo資産:450万円
• 公的年金:月額9万円(年額108万円)
この方がiDeCoを「65歳から5年間」で分割受け取りした場合:
• iDeCoからの年金:年間約103万円
• 公的年金:年間108万円
• 合計収入:211万円
この合計収入は、65歳以上の非課税枠158万円を上回ってしまいます。結果として、所得税や住民税が約8万円、さらに国民健康保険料も値上がりし、5年間で合計約40万円もの税金が増加します。これは、iDeCoでこれまで得てきた所得控除のメリットを台無しにしてしまう可能性もあります。
このことから、iDeCoの年金受け取りは、できるだけ長い期間(15年や20年)で分割して受け取る方が、年間の受け取り額が抑えられ、税負担も軽減される可能性が高いことがわかります。
iDeCo高額・公的年金も平均的な場合のシミュレーション
では、iDeCoの資産がもっと多く、公的年金も平均的な水準の場合のシミュレーションを見てみましょう。
【ケース3〜5】iDeCoが高額で、公的年金も平均的な水準の場合
• iDeCo資産:1,000万円
• 公的年金:月額12万円(年額144万円)
この方がiDeCoを「65歳から5年、10年、20年」で受け取った場合の比較です。
受け取り期間 | 年間iDeCo受取額(運用益込み) | 年金合計額(公的年金+iDeCo) | 年間税負担増(iDeCoなしとの差額) | 総税負担増 | iDeCo手取り総額 |
5年 | 約230万円 | 約374万円 | 約48万5千円 | 約242万円 | 約913万円 |
10年 | 約129万円 | 約273万円 | 約26万5千円 | 約265万円 | 約1030万円 |
20年 | 約80万円 | 約224万円 | 約14万5千円 | 約290万円 | 約1315万円 |
このシミュレーションからわかるように、iDeCoの資産が1,000万円と高額な場合、どの受け取り方でも税負担は発生します。しかし、受け取り期間を長くするほど、年間の税負担額は抑えられ、かつiDeCoの資産が長く運用され続けることで総受取額(手取り額)が増加する傾向にあります。
例えば、5年受け取りでは元本(1,000万円)を割ってしまいますが、20年受け取りでは約1,315万円の手取りとなり、大きく資産を増やしながら受け取ることが可能です。
まとめ:iDeCoとNISA、そして出口戦略の考え方
iDeCoとNISAを比較すると、一見iDeCoの方が有利に見えますが、個人の状況によって最適な選択は異なります。
• 退職金がない方: iDeCoはシンプルな制度であり、掛金による強力な節税メリットを享受できるため、積極的に活用することをおすすめします。一時金で受け取れば、税負担もほとんどかからないケースが多いでしょう。
• 退職金がある方: iDeCoの受け取り方は複雑になりますが、「年金での分割受け取り」を上手く活用することで、iDeCoのメリットを最大限に享受できます。特に、できるだけ長い期間(15年や20年)で分割して受け取ることで、毎年の税負担を抑えつつ、iDeCoの資金を長く運用して増やすことが可能になります。
ご自身の退職金の有無、公的年金の受給見込み額、そして何歳からどれくらいの期間でiDeCoの資産を受け取りたいかなどを考慮し、「出口戦略」まで見据えた上で、iDeCoの活用を検討することが重要です。



iDeCoに関する理解を深めることで、老後資金形成の選択肢が広がり、賢く資産を形成できる可能性が高まります。
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