近年、政府が「貯蓄から投資へ」の推進を後押しする中で、投資家の間で大きな注目を集めているニュースがあります。それは、株式の配当や売却益などの「金融所得」が、今後社会保険料の算定に反映される可能性があるという議論と、金融所得への課税が強化されるかもしれないという動向です。
この動きは、投資を行う私たちにとって実質的な「投資の増税」につながる可能性もはらんでいます。本記事では、これらの議論の背景、具体的な影響、そして私たち投資家が取るべき行動について詳しく解説します。
「金融所得の社会保険料反映」とは?なぜ今議論されるのか
まず、「金融所得」とは、株式などからの配当や売却時の利益から得られるお金のことを指します。現在、この金融所得を社会保険料(医療保険や介護保険など)の算定に反映させる方向で議論が進められています。

つまり”株式配当で儲けたらその分社会保険料も多くもらいまっせ!”ということになります。
この議論の主な狙いは、確定申告の有無によって生じる保険料算定の不公平を解消することにあります。具体的な例として以下の点が挙げられています
•例えば、同じ年間320万円の収入がある世帯でも、年金収入と株式配当がある場合、特定口座(源泉徴収あり)を利用して確定申告をしていない人は、保険料計算上の収入が低く抑えられ、医療保険や介護保険の窓口負担割合や保険料が優遇されている実態があります。
•これに対し、収入の全額が年金の場合や、年金と株式配当があって確定申告をしている場合は、窓口負担割合も保険料も同じとなっています。
このような不公平を解消することが目的であり、主なターゲットは高齢富裕層であるとされています。しかし、一方で、このような議論が進むことで、せっかく始まった「貯蓄から投資へ」の流れに逆風が吹くのではないかという懸念も示されています。
投資家が知るべき「金融所得課税強化」の議論
金融所得の社会保険料反映と並行して、金融所得への課税強化についても議論が続いています。
そもそも、金融所得(株式や投信などの売却益や配当)にかかる税率は、所得税15%と住民税5%を合わせた**約20%**と決められています。この税率は、他の所得に比べて優遇されているという意見も多く聞かれます。
この優遇税率が原因で生じているのが、**「所得1億円の壁」**問題です。所得税は所得が高いほど税率が上がる累進課税制度(5%から45%の7段階)が適用されますが、総所得が約1億円を超えると、逆に税負担率が減少する傾向が見られるのです。これは、高所得者ほど金融所得の割合が増え、その部分には一律20%の税率しかかからないため、結果的に全体の税負担率が低くなるためです。この現象は「金持ちへの優遇だ」と批判されることも少なくありませんでした。
過去には、2021年の自民党総裁選で岸田総理が「1億円の壁」の打破を掲げ、金融所得課税の強化が議論されましたが、株価の大きな下落を招いたため、一時的に「当面触れない」という方針に変更されました。しかし、2024年の自民党総裁選でも、金融所得課税が再度焦点の一つとなり、公平な税制を実現するための手段として議論されています。
「超富裕層向けミニマムタックス」2025年導入へ
このような議論が進む中で、具体的に2025年からは、超富裕層向けの新たな増税策「ミニマムタックス」が導入されることになっています。
ミニマムタックスとは、2025年から導入される超富裕層に対する追加徴税措置のことです。
税負担をより公平にするための措置で、極めて高い水準の所得に対して税金の適正化を図ります。
対象となるのは、年間所得が3.3億円を超える納税者かつ、超過した金額に対する税額の割合が22.5%を下回る場合です。
その場合において、22.5%との差分となる所得税を追加課税します。
課税の対象者は200人〜300人ほどになるとされており、予測される税収は約300〜600億円です。
日本では所得税率が累進課税となっているため、基本的には所得が増えるにつれて税の負担も上がるように設計されています。
しかし、金融所得にかかる税率は累進課税ではなく、一定の所得を超えると税の負担率が減少する状況です。
金融資産は富裕層に集中していることから、現在の税制では一定の水準を超えた高所得者が有利になります。
ミニマムタックスは税制の不公平さを是正するため、導入される制度であるといえるでしょう。
これは、年間で所得が30億円以上の超富裕層が対象となる、実質的な追加課税制度です。
ミニマムタックスの計算方法は、合計所得金額から特別控除額である3.3億円を引いた金額に税率22.5%をかけた金額が、通常の所得税額を超えた場合に、その差額分を追加で納税するというものです。
これにより、超富裕層の実質的な税率は約22.5%に引き上げられることになります。



この制度の対象となるのは、年間で200人から300人程度と見込まれています。
ミニマムタックス導入のもう一つの目的は、海外の先進国との足並みを揃えることだとされています。日本だけでなく、イギリス、米国、ドイツなどの欧米諸国でも「1億円の壁」に相当する現象(所得が増えるにつれて税負担率が減少する傾向)が見られており、海外でも同様の議論が続いています。
私たち投資家はどうすべきか?新NISAの活用が鍵!



これらの金融所得に関する議論や税制改正の動きに対して、私たち投資家はどのように対応すべきでしょうか?
最も重要な点は、現状、新NISAが社会保険料反映の対象外であり、今後も非課税の方針で話が進んでいるということです。
したがって、新NISAの非課税投資枠を最大限に活用することが、私たちの大切な投資資産を守るための最優先事項となります。
新NISAは18歳以上であれば、一人ひとりが口座を開設できます。
夫婦それぞれで新NISAを利用することで、**年間で最大720万円(一人当たり360万円)、生涯投資枠は夫婦合わせて3,600万円(一人当たり1,800万円)**まで非課税で投資が可能です。
もし夫婦間で投資資金を移動させる場合は、贈与税の基礎控除額である年間110万円に抑えて、毎年少しずつ移すのが無難な方法です。



毎年110万円ずつこまめに移していくことで贈与税がかからないのです。
金融所得の正確な把握には高いハードルがあるため、社会保険料への反映が実現するまでには時間がかかると見られています。しかし、このような「投資への逆風」となる可能性のあるニュースに対しては、決して無関心にならず、きちんと声を上げていくことが重要です。
私たちが時間をかけてリスクを取り、コツコツと増やしてきた資産が、将来突然、大幅な税制変更によって不利益を被ることがないよう、引き続き関心を持ち続けることが求められます。


まとめ
•株式などからの配当や売却益などの**「金融所得」が、今後社会保険料に反映される方向で議論が進んでいます。
•これは、確定申告の有無による保険料算定の不公平解消が狙いであり、主なターゲットは高齢富裕層ですが、実質的に投資の増税となる可能性も指摘されています。
•金融所得への課税強化の議論も継続しており、「所得1億円の壁」問題や、2025年導入の「超富裕層向けミニマムタックス」などが挙げられます。
•新NISAは今のところ、社会保険料反映も課税強化の対象外となっています。
•私たち投資家は、大切な資産を守るためにも、新NISAを最大限に活用し、これらの議論に無関心にならず、声を上げていくことが大切です。



投資は私たち自身の将来のための大切な資産形成です。今後の政府の動向にも引き続き注目し、賢く資産を守っていきましょう。
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