2025年の税制改正大綱により、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛け金増額が決定しました。これは多くの会社員や公務員にとって「めちゃめちゃ上がる」と話題になっており、表面上は「めちゃめちゃいいじゃないか」というイメージを持たれがちです。

しかし、iDeCoには「受け取り時の課税」という大きなネックが存在します。
今回の改正で掛け金が増えることで、この課税ダメージが拡大するのではないか?これまで「大した問題なかった」受け取り時の税金が、「問題が生じる」可能性が出てきたのです。
本記事では、このiDeCo大改正によって、最終的にiDeCoがあなたにとって「得」になるのか「損」になるのかを、シミュレーションに基づいて徹底的に解説します。すでにiDeCoを運用している方も、これから検討する方も、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の状況に合わせた最適な選択を見つけるきっかけにしてください。
iDeCo掛け金増額の衝撃と節税メリット



まず、iDeCoの掛け金がどのように変わるのか整理しましょう。
これまでは、自営業者、企業年金のない会社員、企業年金のある会社員、公務員など、属性によって限度額が定められていました。
改正後の月額上限額(予定):
• 自営業者:7万5,000円(+7,000円)
• 会社員(企業年金なし):6万2,000円(+3万9,000円)
• 会社員(企業年金あり):6万2,000円(企業年金と合算して)
• 公務員:5万4,000円(+3万4,000円)



特に会社員や公務員にとっては、大幅な増額となります。
この掛け金が増えることの最大のメリットは、**「節税効果が大きく」**なることです。iDeCoの掛け金は全額所得控除の対象となるため、所得税や住民税が軽減されます。例えば、年収500万円の会社員が毎月6万2,000円をiDeCoに積み立てると、年間で約14万8,000円の所得税が節税されます。これが10年続けば148万円、20年続けば296万円もの節税効果が期待できます。
さらに、年収が高ければ高いほどiDeCoの恩恵は大きくなります。年収1,500万円の人の場合、年間で約31万9,000円、20年間では約638万円もの節税が可能です。これまでの掛け金上限(月2万円)と比較すると、節税効果は約3倍になる計算です。
iDeCo受け取り時の税金、その複雑な真実



積み立て時の節税効果が大きいiDeCoですが、問題となるのは「受け取り時」です。
1. 一括で受け取る場合:退職所得控除の活用がカギ
iDeCoを「一括」で受け取る場合、税金の計算方法は**「退職金を受け取った時と同じ」**になります。非課税になる金額は、iDeCoの積み立て期間に応じて以下のように決まります。
• 積み立て期間が20年以下の場合:40万円 × 年数
• 積み立て期間が21年以上の場合:800万円 + 70万円 × (年数 – 20)
例えば、20年間iDeCoを続けた場合、800万円が非課税になります。しかし、月6万2,000円を20年間積み立て、年利5%で運用すると約2,500万円、30年間では約5,000万円にもなる可能性があります。この場合、非課税枠を大きく超えてしまうため、「まあまあ税金がかかってくる」ことになります。
退職金とiDeCoを「同一年」に受け取る場合:
このパターンが最もシンプルで、税制上も有利になるケースが多いです。退職金とiDeCoの一括受け取りを同じ年にすると、非課税額の計算において「退職金の勤続年数」と「iDeCoの積み立て年数」のうち、「長い方」が適用されます。
シミュレーション例として、iDeCoが20年で3,000万円(年利6.5%)、退職金が1000万円(勤続30年)の場合を考えてみましょう。勤続年数30年が適用され、1,500万円が非課税となります。合計4,000万円を受け取った場合、税金は約400万円となり、手取りは3,600万円です。4,000万円を給料で受け取ると約半分が税金で持っていかれることを考えると、「まあまあいい」と言えます。
特定口座やNISAとの比較(同一年受け取りの場合):
• 特定口座との比較:
iDeCoで400万円の税金がかかるのに対し、もし同じ金額(1500万円が3000万円に増えた利益1500万円)を特定口座で運用していた場合、利益に対する20%課税で300万円しか税金がかからないため、表面上は特定口座の方が有利に見えることもあります。しかし、iDeCoは毎年の所得税が軽減されているメリットがあり、この節税効果が100万円を超えている場合、最終的にはiDeCoの方がお得になる可能性が高いです。特に、退職金とiDeCoを同一年で受け取る場合は、ほとんどのパターンで「特定口座よりもiDeCoの方が良さそう」と言えます。
• NISAとの比較:
ざっくりとした目安として、年収1,000万円以下の人であればNISAの方が有利になることが多いです。NISAはそもそも運用益が非課税であるため、退職金とNISAの受け取り時に税金はかかりません。一方、年収1,000万円以上の人であればiDeCoの方が有利です。これは、年収が高いほどiDeCoによる毎年の所得税軽減効果が大きいため、退職所得税がかかっても、これまでの恩恵がNISAよりも大きくなるという理屈です。 ただし、NISAの生涯非課税投資枠が1,800万円であるため、この枠を使い切った後であれば、特定口座よりもiDeCoの方が良い選択肢となります。
退職金とiDeCoを「異なる年」に受け取る場合:
ここが「ややこしい話」であり、iDeCoの受け取りで「罠」になり得る点です。例えば、60歳で退職金を受け取り、その5年後の65歳でiDeCoを一括受け取りしたケースでは、衝撃的な結果が出ます。 退職金を受け取った時点で、非課税のカウントが「リセット」されてしまうため、iDeCoの非課税額は、退職金を受け取った年からの期間(この例では5年間)でしか計算されません。これにより、本来20年間積み立てたiDeCoが3,000万円になったとしても、非課税額は40万円 × 5年間でわずか200万円となり、税金が1,100万円もかかり、手取りが1,900万円に激減する可能性があります。これは「やばいこと」であり、原則として退職金とiDeCoの受け取りは**「必ず同じ年にする」**べきだと言えます。
しかし、退職金が55歳で支給されてしまう人や、すでに退職金を受け取ってしまった人、またはiDeCoの受け取りを同じ年にしようとしたら暴落してしまった人など、同じ年に受け取れないケースも存在します。
例外ルール:19年ルール
退職金が55歳に支給された場合など、退職金を受け取ってからiDeCoの受け取りまで19年以上期間が空いていると、非課税の計算がリセットされずに、iDeCoの「積み立て期間」が適用されます。これにより、iDeCoの非課税枠を最大限活用できる可能性があります。ただし、iDeCoは最長75歳までに受け取る必要があるので、このルールが適用できるのは限られたケースです。また、非課税の計算は「運用期間」ではなく「積み立て期間」でカウントされる点にも注意が必要です。
2. 年金で受け取る場合:公的年金と合算課税



「退職金とiDeCoを同一年で受け取れない」場合や、「75歳まで待てない」といったケースでは、iDeCoを**「年金形式で受け取る」**ことをお勧めします。
iDeCoを年金受け取りした場合、**「公的年金を受け取ったのと同様の税金」**がかかります。つまり、公的年金にiDeCoからの年金が上乗せされる形で、所得税・住民税・健康保険料・介護保険料が課税されることになります。
例えば、iDeCoの資産3,000万円を年利5%で20年間年金受け取りにすると、年間約235万円を受け取れます。公的年金が年間200万円の人と合わせて、合計435万円が収入となり、これに対して税金や保険料が計算されます。この場合の税金・保険料の合計額は年間約77万円となり、公的年金のみの場合の約22.7万円と比較すると、年間で約54.3万円多く支払うことになります。これが20年間続くと、合計で約1,086万円の税金が増える計算です。
税金が1,000万円以上かかると聞くと「めちゃくちゃかかるじゃないか」と思うかもしれませんが、もし退職金の5年後にiDeCoを「一括」で受け取っていたら、税金は1,100万円かかり、手取りは1,900万円になっていたはずです。それが年金受け取りであれば、合計4,600万円を受け取り、税金1,080万円を引いても手取りが約3,500万円になります。この比較では、明らかに「年金受け取りの方がいい」と言えるでしょう。
特定口座との比較(年金受け取りの場合):
年金受け取りの場合、iDeCoは「元本も利益も共に課税される」点が特定口座と異なります。特定口座は「増えた分(利益)にのみ」20%の金融所得税がかかります。
もし1,500万円を特定口座で運用し、3,000万円になった資産を20年間で年235万円ずつ売却した場合、年間約157万円の利益に対し20%の税金(約31.4万円)がかかり、20年間で合計約628万円の税金になります。一方、iDeCoの年金受け取りでは、毎年の節税効果を考慮しても最終的に約1,080万円の税金が発生します。
現状のルールだけを考えると、年金受け取りを前提とした場合、iDeCoと特定口座で「そんなに大きく変わらない」という結論も導き出せます。しかし、これは将来的な税制変更の不確定要素が含まれています。例えば、特定口座の利益に対して、現在20%の金融所得税だけでなく、将来的に健康保険料や介護保険料などの社会保険料もかかるようになる可能性が議論されています。もしそれが現実になれば、iDeCoの方が有利になることも考えられます。
あなたにとってiDeCoは「得」なのか?最適な選択肢を見つけるヒント



iDeCoの掛け金が増額されることはほぼ確実ですが、それによって掛け金を増やすべきか、最終的に得になるのか損になるのかは、非常に複雑です。
iDeCoが「効果がある」ケース:
• 退職金とiDeCoを「同じ年」に受け取れる場合
• 退職金がない場合
• 年収1,000万円以上など、毎年の所得税軽減効果が大きい場合
iDeCoの受け取り方が重要なケース:
• 何らかの事情で退職金とiDeCoを「同じ年」に受け取ることができない場合:iDeCoを「年金受け取り」にすることを強くお勧めします。もし一括受け取りにすると、明らかに損失が発生する可能性があります。
• 年金受け取りを選んだ場合:特定口座と比較して、現状ではどちらが明確に良いとは断言できません。将来的な税制変更によっては、評価が変わる可能性があります。
このiDeCo大改正への対応は、「その人の収入や年齢、退職金の有無などによってかなり変わってきてしまいます」。ある人にとっては「めちゃめちゃいい改正」でも、別の人にとっては「ぶっちゃけどうでもいい改正」になることもあります。
あなたに最適なiDeCo戦略を見つけるために
今回のiDeCo大改正は、多くの人にとって有利に働く可能性を秘めていますが、受け取り方によっては思わぬ落とし穴もあります。特に退職金との兼ね合いや、受け取りタイミングの戦略が重要になります。



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