老後4000万円は本当?2000万円問題の今

老後

「老後2000万円問題」が話題になったのは、もう6年以上前のことです。それが最近、SNSやテレビで老後4000万円問題という、さらに恐ろしい数字に置き換わって拡散されているのをご存知でしょうか。

「2000万円すら用意できていないのに、今度は4000万円…?」——そう感じて、検索してこのページにたどり着いた方も多いと思います。

正直に言うと、これは煽りに近い試算です。ただし、「じゃあ気にしなくていい」という話でもありません。

この記事を読むと、「2000万円」も「4000万円」も、実はどちらも”ある前提条件を置いた場合の一例”にすぎないということが分かります。そして、数字に振り回されるのではなく、自分の場合に本当に必要な金額をどう考えればいいか、その道筋が見えるようになります。

特に、転職が多く退職金制度が読みにくい医療職の方には、一般的な「モデル世帯」の試算がそのまま当てはまらない事情もあります。そこも含めて、順を追って整理していきます。

目次

「老後○○万円」はすべて前提条件次第で変わる数字

ここが、この記事の核心です。

2019年の「2000万円」の中身

2019年に金融庁が公表した報告書の試算はこうです。夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみ無職世帯で、年金収入だけだと毎月約5万円の赤字。これが20年続けば約1,300万円、30年なら約2,000万円が不足する、という計算です。この「5万円」という数字は、2017年の家計調査という、当時としては最新のデータに基づいていました。

2026年の「4000万円」の中身

一方、最近話題の「4000万円」は、金融庁の試算に物価上昇率3.5%が今後も続くという前提を重ねたものです。物価が上がれば、同じ生活水準を維持するのに必要なお金も増える——という理屈自体は間違っていません。ただし、40歳の方が60歳でリタイアする場合と、20歳の方が60歳でリタイアする場合とでは、複利で効いてくるインフレの影響がまったく違います。実際、同じ前提でも「今何歳か」によって試算結果は3,000万円にも4,000万円超にも変わります。

あまり知られていない「1200万円」という反論

ここが今回一番お伝えしたいポイントです。

第一生命経済研究所は、2023年時点の最新の家計調査データを使って再計算すると、長期インフレ率2%を見込んでも、必要額は約1,200万円弱で足りるという試算を出しています。

なぜここまで結果が変わるのか。

理由は単純で、「今のシニア世帯が実際にいくら貯蓄を持ち、いくら使っているか」という前提データが、調査年によって違うからです。

ちなみに同レポートでは、高齢者世帯の貯蓄額は平均2,462万円・中央値1,604万円というデータも示されています。つまり「今の高齢者」はそもそも、報告書が想定したよりも多くの資産を持って老後を迎えているケースが多い、ということです。

ここから分かること

「2000万円」も「4000万円」も「1200万円」も、計算した人が「どの年のデータを使ったか」「何%のインフレを仮定したか」「今何歳の人を想定したか」で変わる、ただの試算例です。どれか一つが「正解」なわけではありません。

だからこそ重要なのは、他人が計算した数字に驚くことではなく、自分の年齢・貯蓄・年金見込み額で、自分の数字を出してみることです。

自分の場合の必要額を試算する4つのステップ

「他人の試算に一喜一憂しない」と言われても、じゃあ自分はいくら必要なのか——ここが一番知りたいところだと思います。難しく考える必要はなく、以下の4つを順番に埋めていくだけで、ざっくりとした自分の数字が見えてきます。

<ステップ1:年金の見込み額を確認する>
 「ねんきんネット」に登録すると、今の加入状況をもとにした将来の年金見込み額が確認できます。モデル世帯の平均ではなく、自分の実際の見込み額を知ることが出発点です。

<ステップ2:老後の生活費をざっくりイメージする>
 今の生活費から、住宅ローン完済後の支出減や、通勤・仕事関連費用がなくなる分を差し引くと、老後の月間支出のイメージがつかめます。

<ステップ3:今の資産と積立ペースで、リタイア時の資産を試算する >
 今の貯蓄額に、月々の積立額×リタイアまでの年数を足せば、大まかな着地点が分かります。

<ステップ4:年金+資産で、何年分の生活をカバーできるか見る>
 ステップ1の年金収入で生活費の何割を賄えるか、足りない分をステップ3の資産で何年分カバーできるかを見れば、「自分の場合、リタイア時にいくらあれば安心か」の目安が見えてきます。

医療職の場合、ここに1つ注意点が加わります

一般的な老後資金の試算は、多くの場合「退職金を含めた金額」を前提にしています。しかし医療職、特に看護師や臨床工学技士は、キャリアの途中で複数回転職するケースが珍しくない業種です。

退職金制度の多くは勤続年数に応じて金額が積み上がる仕組みになっており、転職のたびに勤続年数がリセットされるのが一般的です。

つまり、同じ病院に定年まで勤め上げた場合の退職金と、2〜3回転職を経た場合の退職金では、同じ「元CE」「元看護師」という経歴でも、最終的な受取額が大きく変わってきます

一般的な「老後○○万円」の試算をそのまま鵜呑みにすると、退職金の想定が実態より多めに見積もられている可能性がある、という点は、医療職ならではの注意点として意識しておく価値があります。

まとめてやることリスト

ここまでの内容を、実際の行動に落とし込みます。

  1. 「4000万円」という数字に振り回されない
      前提条件次第でいくらでも変わる試算だと分かった今、この数字自体に恐怖を感じる必要はありません。
  2. 「ねんきんネット」で自分の年金見込み額を確認する
      他人の平均ではなく、自分の実際の数字を知ることが、すべての土台になります。
  3. 転職経験がある・予定がある方は、退職金を「当てにしすぎない」前提で試算する
      医療職特有の事情として、退職金は「もらえたらラッキー」くらいの位置づけで、年金+自助努力の資産形成をメインに考えておくと、あとで慌てずに済みます。
  4. 自助努力の部分は、NISAのような非課税制度を使って積み立てる
     ここが、実際の行動として一番再現性が高い部分です。

老後の備え、今日からできる一歩

「老後にいくら必要か」という問いに、絶対的な正解はありません。ただ、はっきりしているのは、年金と退職金だけに頼るシナリオは、医療職にとって少しリスクが高いということです。

転職を経験する・する予定がある方ほど、「自分で用意する部分」の比重を意識しておいて損はありません。

幸い、NISAという「利益に税金がかからない仕組み」を使えば、毎月の積立を長期でコツコツ続けるだけで、この「自助努力」の部分を無理なく積み上げていけます。以前の記事「夜勤で忙しい医療職のためのNISA入門」で紹介した通り、判断を毎月挟まない仕組みさえ作ってしまえば、あとは淡々と続くだけです。

証券口座の開設自体は無料で、数十分で完結します。

「老後○○万円」という数字に驚いて終わるのではなく、まず自分の積立の土台を作っておく——それが、この記事から取れる一番現実的な一歩です。

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